『ディオゲネスのいる風景』(ディオゲネスのいるふうけい、英: Landscape with Diogenes)、または『鉢を投げ捨てるディオゲネス』(はちをなげすてるディオゲネス、仏: Diogène jetant son écuelle、英: Diogenes Throwing away his Bowl)は、17世紀フランスの巨匠ニコラ・プッサンが晩年の1654-1658年にキャンバス上に油彩で制作した風景画である。1648年に当時有数の銀行家でリヨンとパリに邸宅を持っていたマルク=アントワーヌ2世・ド・リュマグ (Marc-Antoine II de Lumague) のために描かれたが、1665年にフランス王ルイ14世に取得された。作品は現在、パリのルーヴル美術館に所蔵されている。
作品
この絵画の出典は、プッサンの愛読書の1つであったプルタルコスの『倫理論集 (モラリア)』であると思われる。それによると、古代ギリシア犬儒学派の哲学 (やがてストア学派を生み出す) の祖ディオゲネス (紀元前413年ごろ-324年ごろ) がアテネの町の郊外を歩いていた折に、水辺で「ある男」が何ら器を使わずに自分の手で水をすくって飲む姿を見た。ディオゲネスは、自らも世俗の財をことごとく捨て、ずだ袋と杖と鉢しか持っていなかったのに、この男の姿に打たれ、持っていた鉢すら無用のものとして投げ捨てたという。
この図像は15世紀末以来見られるが、きわめてわずかしか描かれていない。おそらくプッサンの知人で画家のサルヴァトール・ローザの同主題の作品『哲学者の森』 (1640-1645年ごろ) を見たか、そのデッサンか版画を参照したことが想像される。
本作は、「大様式」と呼ばれるプッサンの完成された様式を示す風景画である。プッサンが住んでいたローマの町で誰もが知っていたヴァチカン宮殿の1部のベルヴェデーレ宮 (ブラマンテの設計で、1527年までに完成) や、テヴェレ川の深くえぐれた谷の彼方にそびえる、緑の木々や茂みに囲まれたベルヴェデーレの神殿の大きな破風などが表されている。ヴァチカン宮殿にあたる光の描写力には、プッサン同様、ローマに住んでいたフランスの画家クロード・ロランに劣らぬものがあり、さらに空気遠近法が見事である。美術史家のデニス・マホンは、本作を含むプッサンの後期の風景画にはクロード・ロランの影響があることを推測している。
脚注
参考文献
- 辻邦生・高階秀爾・木村三郎『カンヴァス世界の大画家14 プッサン』、中央公論社、1984年刊行 ISBN 4-12-401904-1
- W.フリードレンダー 若桑みどり訳『世界の巨匠シリーズ プッサン』、美術出版社、1970年刊行 ISBN 4-568-16023-5
外部リンク
- ルーヴル美術館公式サイト、二コラ・プッサン『ディオゲネスのいる風景』 (フランス語の英訳)




